1.緒言
ボイラー等の排ガス中NOx除去法として、チタニア担持バナジア系触媒を用いるアンモニア脱硝反応が我が国において開発され、世界中で広く利用されている。
しかし、国内NOx固定発生源の10%以上が未対策のままになっていると言われている。その理由として、現在用いられている触媒では、脱硝装置が非常に大型にならざるを得ない点があげられる。その解決策として脱硝装置の小型化が切望されており、既存の脱硝触媒より数倍から十数倍高活性な触媒の開発が求められている。本研究では、高活性触媒の設計指針を得ることを目的とし、高表面積チタニア系担体を用いて、担体物性がアンモニア脱硝活性に与える影響を検討した [1]。
2.実験
担持バナジア触媒は、表1に示すチタニア及びチタニア-シリカ担体5種[2-4]を用いCLD (chemical liquid-phase deposition)法[5]および通常の含浸(IMP)法にて調製した。NO-NH3反応は常圧流通反応装置を用い、生成ガスの分析にはガスクロマトグラフ及び化学発光式NOx分析計を用いた。標準反応条件は、NO濃度1000ppm、NH3濃度1000ppm、O2濃度4%(バランスガスHe)、ガス全流量400cm3min-1、触媒量0.01gである。触媒表面V=O濃度をNARP
(NO-NH3 rectangular pulse technique) 法[6]にて測定した。担体表面水酸基密度は、熱重量分析における300-600℃間の重量減少量から見積もり、一部の試料についてはCH3MgI法により確認した。
Sample | Si/Ti | Surface Area | OH density / mmol m-2 | Reference | |
mol/mol | m2 g-1 | 393Ka | 573Ka | ||
TIO | 0/100 | 55 | 36 | 14.6 | [2] |
ST | 4.1/100 | 93 | 21 | 9.6 (9.4)b | |
GT | 10/100 | 207 | 15 | 4.6 (4.8)b | [3] |
XG | 10/100 | 231 | 11 | 6.2 | [3] |
HT | 0/100 | 133 | 16 | 5.2 | [4] |
3.結果と考察
図1にNO転化率に対する担体の影響を示した。触媒主成分であるバナジアの担持量は担体チタニアの表面積当たりの密度が一定となるように定められているので、担体表面積が大きいほどバナジア担持量も多く、活性も高くなると予想される。バナジア担持量が小さい場合(図1a)には、低温では、活性序列はXG>GT≧ST>TIOであり、担体表面積の傾向と一致する。しかし、バナジア担持量が大きくなると(図1b)、STが最も高活性であり、また低表面積のTIOが高表面積担体(XG, GT)と同等の活性を与える。以上の結果は、触媒活性が担体表面積だけで決まるのではなく、その他にも制御因子が存在することを示している。
図2には、NO転化率に対するバナジア担持量の影響を示した。担持量が少ない範囲ではNO転化率はバナジア担持量に対して直線的に増大するが、それ以上に担持量が増すとNO転化率は逆に低下する。ここで興味深いのは、比較的低表面積の担体(TIOとST)と高表面積担体(GT, XG, HT)の二つのグループに分かれること及び低表面積担体の方が転化率が高いことである。担持バナジア触媒上でのNO-NH3反応は構造鈍感型反応であるので、同じバナジア担持量で高活性という上述の結果は、低表面積担体上でバナジアが触媒活性点を効率的に形成していることを示唆している。
図1 | 触媒活性に対する単体の影響.添加バナジウム量:0.25 (a) および 0.5モノレイヤー(b). 担体乾燥温度:393K. |
図2 | 担持V2O5基準で比較した担体の影響.反応温度:573K.半塗り:CLD法、担体393K乾燥.白抜き:CLD法、担体573K乾燥.黒塗り:IMP法.その他の記号は図1参照. |
この点を確かめるため、本反応の活性点である表面V=Oの密度をNARP法により測定した。その結果、図3に示すように、表面積当たりのバナジア担持量の増加につれて表面V=O密度も増すが、一定の限界を超えると増加の速度は著しく低下する。この限界は低表面積担体で高く、高表面積担体で低い。この結果は低表面積担体上でバナジアが活性点を構築する比率が高いことを示しており、図2の反応結果と良く一致している。
図3 | 表面V=O密度に対する担体の影響. 点線:V2O5が理想的モノレイヤーとして担持された場合.その他の記号は図2参照. |
図4 | 担持V2O5表面密度に対する担体表面OH密度の影響.Vadd/Vmono:理論モノレイヤーV2O5量に対する添加V2O5量の比. |
図3を詳細に見ると、担体を高温で乾燥した場合(白抜きの記号)にバナジアの担持量が低下し、それにつれて表面V=O密度も低減する傾向がある。また、図3の表面V=O密度の傾向と表1のOH密度の序列が一致することから、担体表面上のOH密度がバナジアと担体の相互作用を制御し、バナジアの高活性構造を造り出す重要な因子であることが予想される。そこで、この仮説を確認するために、担体表面積当たりのバナジア担持量に対する担体の表面OH密度の影響を図4に示した。図に見られるように、OH密度の増加に伴いバナジア担持量が増加しており、上述の仮説、すなわち、担体のOH密度がバナジア-チタニア触媒の活性を制御する重要な因子であることが確認された。