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産業科学フォーラム2010 講演概要

9月10日  産業科学フォーラム2010を開催
テーマ   自然と人間の調和を目指す産業科学
         
架谷昌信名古屋産業科学研究所専務理事の挨拶の後、名古屋産業科学研究所上席研究員3名の講演がありました。

講演題目・講師 
I. 「天然物からの新薬の創生(創薬)」
永井博弌上席研究員(岐阜薬科大学学長を経て平成22年より岐阜保健短期大学学長、専門は免疫薬理学・基礎アレルギー学)            
概要:1.研究の背景、2.成功例2件の紹介、3.現在進めている研究、について講演された。まず、植物から免疫学的疾患をターゲットとして創薬(実用化される薬を創る)を研究するに至った背景と、免疫系においては細胞性免疫(Th1)と体液性免疫(Th2)があるがそのバランスが重要であることが説明された。2では、まず南天の実から抽出したトラニラストが薬として商品化されるまでを紹介された。実際薬として市販され治療に用いられるようになると別の治療効果も見いだされ、「薬が独り歩きする」という話も印象に残った。続いてビタミンUの誘導体をスプラタントのトシル塩として薬にするまでの18年間の研究について紹介された。最後にステロイド化合物やポリフェノール化合物を自己免疫疾患の治療に向けて探索されている状況が紹介された。質問では、メディシナル・ケミストリーは薬の材料合成という面では創薬の重要な分野だが本当の創薬とは言えないのではなど活発な討論が行われた。





II. 「光と分子のコラボレーション
ガンの治療からコンピューターまで
富岡秀雄上席研究員(三重大学名誉教授、愛知工業大学客員教授、日本化学会フェロー)
概要:可視光、紫外線が有機化合物の結合と同程度のエネルギーを持つことから、光を照射すると、1.結合が切れる、2.二重結合が回転する、3.二重結合が付加する、をキーワードにこれらの現象が我々にいかに役立っているかを豊富な例を挙げ紹介された。1ではUV硬化樹脂や印刷、プリント基盤作成の応用例が紹介された。2では510 nmの緑色光線の治療への応用やある波長が植物の生長を促進すること、光エネルギーを機械エネルギーへ変換する分子モーターなどが紹介された。3ではDNAの光化学反応に基づく光毒性、色素を用い可視光で酸素を活性化して腫瘍細胞を除去できるなどの例が紹介された。時間がなく、ご自身の研究の紹介ができなかったのは残念であった。





III. 「上席研究員の提言(国立大学法人の若手教員1万人ポストの増設)」
毛利佳年雄上席研究員(名古屋大学名誉教授) 
概要:上席研究員の学識や経験などを活かして、産業科学の立場から外部に向けて科学技術振興施策に関する提言活動を行うこととし、4名のWG委員が内閣府の「4期科学技術基本計画骨子(素案)」、日本学術会議「4期科学技術基本計画への提言」、文部科学省「国立大学法人化後の現状と課題について(中間まとめ)(概要)2010年7月公表」、北澤宏一科学技術振興機構理事長の「ポスドクへの苦言ー迷いを棄て決断ー(平成22年3月物理学会春年会講演PPT)」など34の文献を精査し、演題のような提言案を提示するに至った経緯が紹介された。今後とも提言内容の向上に向け、研究部内で検討していくこと、次回の産業科学フォーラム(11月16日開催)の後でも検討することになった。







参加者は45名で非常に盛況であった。いずれの講演も内容は充実しかつ問題を提起するものであり、学生や若手研究者にとっても有意義なものと思われた。来年度の産業科学フォーラムでは学生や若手研究者に参加を呼び掛けてもいいのではと感じた次第である。
(報告者 山根隆上席研究員)






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